
私のお散歩日和。 Vol.4 香菜子
「長い歴史とものづくりに溢れる、足利市へ」
私のお散歩日和。 Vol.4 香菜子
「長い歴史とものづくりに溢れる、足利市へ」
2025.10.07
会社を出て最寄駅から家までの帰り道。いつものスーパーまでの道のり……。変わらない目的地と、見慣れた風景を歩く毎日だけでは歩く楽しさを忘れてしまいがち。目的なんてなくても良い、どんな道のりでも良い。ただ自分が一歩進みたい場所へ歩いてみよう。そんな連載「私のお散歩日和。」の第四回目を歩くのは、モデルで活躍する傍ら、イラストレーターや雑貨ブランドのデザイナーとしても多彩な才能を発揮する香菜子さん。今回は東京から少しだけ足を伸ばし、アキレス株式会社創業の地であり香菜子さんの出身地でもある栃木県足利市へ。歴史と自然が調和するこの街を、香菜子さんの思い出とともに巡っていく。そこには穏やかな時間が流れ、日本の古き良きものを大切にし続ける街の人々の姿があった。

離れたからこそ感じる
故郷の素晴らしさ
東京から電車に揺られて約1時間。古くは足利庄が栄え、清和源氏義家流・足利氏発祥の地としても知られ、日本最古の学校“足利学校”がある。数多くの歴史が残る栃木県足利市生まれの香菜子さんがまず訪れたのは、葡萄畑が広がるココ・ファーム・ワイナリー。子どもの頃に父親がよく連れて行ってくれたことをきっかけに、帰省時には今でも訪れる。「幼い頃から家族で訪れていた大好きな場所です。収穫祭やジャズの演奏会もあって、大人たちが静かにワインを嗜みながら音楽を聞いている空間が、子どもながらにとても心地よかった。ここのワインは絶品で、中でも微発泡の『あわここペティアン』がお気に入り。ワイナリーに立ち寄った時には何本か購入し、なかなか行けない時はネット注文して常に家にストックしています」。

みんなで助け合って造る
自然派のおいしいワイン
ココ・ファーム・ワイナリーの葡萄畑が、特殊学級(現在の支援学級)の中学生とその担任教師によって開墾されたのは1950年代のこと。足利市田島町の急斜面を汗まみれになりながら夏草を刈り、冬風が吹くなかお礼肥えの穴を掘って作っていったそう。基本的には平らな土地にある葡萄畑だが、ここは平均斜度38度、上の方は42度という急斜面。当時は山奥の急斜面を開墾するしかなかったそうだが、南西向きで日当たりが良く、急斜面のため水はけも良い。この立地を逆手に取り、自然の恵みから上質なワインを生み出していった。ここで働く人々は、ほとんどの人が重度の知的障害を持つ『こころみ学園』の園生たち。それぞれ得意なことを活かしながら丁寧に作業を行う彼らのおかげで、一度も除草剤を撒いたことがなく、安心安全のおいしいワインが出来上がる。香菜子さんもその背景やものづくりに対する誠実な向き合い方に感銘を受けた。「例えばシャンパン方式のビン内二次発酵でつくるスパークリングワインは一日45度ボトルを回さなければいけない作業を正確にできる人、常に畑を観察してカラスが来たら缶を叩いて音を出して追い払う人など、その人の得意なことを仕事にできるって素敵だなと思いました。あと、お土産コーナーに置いてあるキーホルダーやポストカードのデザインもとてもおしゃれ。家のインテリアとして飾っています。私もイラストを描くのでインスピレーションをもらっています。人生にとても影響を与えてくれる場所ですね」。

ものづくりの街から学んだ
人生を支える「見立てる力」
足利市は繊維産業を中心にものづくりが盛んな街として知られている。香菜子さんの父も染色家で83歳になった今も現役で仕事を続けている。常にものづくりの大人たちと関わることが多く、その環境が香菜子さんの感性を育てていった。大学は美術大学に進学し現在はモデルで活躍する傍ら、イラストレーターや雑貨ブランドなども手がけており、当時の経験が今へと繋がっているのだ。小学生の時に社会科見学で行ったアキレス足利工場の思い出も語ってくれた。「長靴の生産ラインを見学した時のことを今でも覚えていて、“できたての長靴はあったかい”というのが、当時とても衝撃的でした(笑)。今こうして取材を受けながらお話ししているのは感慨深いですよね」。
香菜子さんのもの選びのこだわりは、値段に関係なく自分が良いと思ったものを取り入れること。ふらっと立ち寄った蚤の市や雑貨店で見つけたものも大切に使い続け、「見立てる力」を育んでいきたいと話す。「最近、中国茶を習っているんですが、淹れる時にはお店で見つけた木の切り株の上に、器を置いたりして。そんなちょっとしたアイデアが、日々人生の応用になると思っています」。

歴史を辿りながら歩く、
私だけのお散歩道
次に訪れたのは、源姓足利氏二代目の足利義兼によって建久7年(1196年)に建立された鑁阿寺(ばんなじ)。2023年には本堂が「国宝」に指定されたお寺で、「日本の名城百選」にも選定されている。近くの高校に通っていた香菜子さんにとって鑁阿寺は、よく自転車で走った思い出の場所だそう。甘味屋さんやケーキ屋さんに立ち寄り、青春時代を過ごした。当時NHK大河ドラマ『太平記』の撮影が行われており、撮影の様子を見に行ったんだとか。現在、香菜子さんは東京と鎌倉を拠点に暮らしており、そこで偶然な繋がりを発見する。「2ヶ月前に鎌倉市に引っ越したのですが、偶然にも鎌倉市と足利市が姉妹都市だったんです。その繋がりがとても愛おしくなりました。鎌倉市もお寺がとても多く、今その街を知るために、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を1話から見直しているんです。歴史に基づいたストーリーなので、本当のお寺が家のすぐ近くにあったりして、お散歩しながら『あ、これはドラマに出てきた梶原景時が建てたお寺だ!』と一人で興奮しながら歩いています。歴史を辿りながら歩くお散歩が、今は何より楽しいです」。

可愛くなりすぎない
大人のバランスを探す
香菜子さんのファッションスタイルで心掛けているのは、可愛くなりすぎないコーディネート。この日はリネン生地のブラックワンピースとブラウンのジャケットを合わせて、涼しげな印象に。アキレス・ソルボは抜け感を演出してくれるオフホワイトをチョイス。「歩きやすい靴が好きなんですが、このコーディネートにはスニーカーではないなっていう時、ありますよね。アキレス・ソルボはレザーで綺麗めに履けるのに、スニーカーのように履きやすくて驚きました。私は扁平足なのですが、足の裏にしっかりフィットしてくれる構造が、とても楽で良いですね」。
当時の思い出とともに足利市の魅力を案内してくれた香菜子さん。一度故郷を離れてみると、改めてその街の良さを知ることができる。それぞれの時代で人々が手を取り合いながら日々の暮らしを大切にする、そんな日本の素晴らしい歴史を繋げていきたいと感じた。
香菜子さんが着用したシューズはこちら。

「C 497」モデル オフホワイト ¥24,200(税込)
<撮影協力>
ココ・ファーム・ワイナリー
住所/栃木県足利市田島町611
TEL/0284-42-1194
鑁阿寺
住所/栃木県足利市家富町2220
TEL/0284-41-2627
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香菜子(かなこ)
モデル、クリエーター。1975年生まれ。モデル活動とともにスタイルブックやライフスタイル書籍など多数執筆。2020年より『おぱんつ君』というキャラクターを考案。絵本やぬいぐるみ、作品展示などの活動もスタート。
Instagram:kanako.lotaproduct
Photographer:Ayako Masunaga Text & Edit:Saki Shibata
